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2022.08.25

プライム市場に上場する企業のスコープ3開示度はわずか22.4%

 

「クライメート・プレッジ」賛同する日本企業はわずか3社

日本政府は2050年のカーボンニュートラル実現を目指しているが、それよりも10年早い2040年にカーボンニュートラルの実現を目指す有志の企業連合が存在する。それが「クライメート・プリッジ」である。この連合にはアマゾン、マイクロソフト、SAP、P&Gなど錚々たる企業が名を連ねているが、日本企業は322社中3社しか賛同表明していない(2022年8月15日時点)。

証券取引所の改革とカーボンニュートラル

ところで、2022年の4月から東京証券取引所の市場区分が変わった。従来の「市場第一部、市場第二部、マザーズ及びJASDAQ」の4つの市場区分に代わって、「プライム市場、スタンダード市場、グロース市場」の3つの市場区分が形成された。そのうち、ほとんどの大企業が所属するのがプライム市場であり、スタート時点で1839社が当該市場に上場している。このプライム市場に上場するにはさまざまな条件が課せられるが、そのうちの一つが気候変動リスクに対する情報開示である。特にCO2排出量の削減目標では、事業活動やエネルギー消費に伴う排出量である「スコープ1」、「スコープ2」の削減だけでなく、取引先など自社以外のサプライチェーン全体の排出量「スコープ3」の削減に向けた情報開示を推奨している。

現段階でどこまで開示されているのか

この情報開示の推奨に対して、現時点でプライム市場に上場する企業はどこまで対応できているのか。DATAFLUCT社のbecozチームではプライム市場に上場する企業を対象として、各企業のCO2排出量に関するデータ分析を行った(※1)。

Tableau Public「企業のスコープ3開示を阻む課題 今、必要とされているデータとは?」

上図では横軸に製品の製造過程や消費過程を、また円の大きさでCO2の排出量を表している。下図では横軸に製品の製造過程や消費過程を、縦軸にCO2排出量を算定・申告できている企業の割合を、また円の大きさでCO2の排出量を表している。ちなみに横軸の「燃料の燃焼」がスコープ1に、「電気の使用」がスコープ2に、それ以外のものが「スコープ3」にそれぞれ相当する。

その結果、以下のことがらが明らかとなった。

● ****スコープ3の削減が重要であるということ。多くの業種で出されるCO2の大部分は「自社」由来、すなわちスコープ1やスコープ2ではなく、製品を生産する前段階、また配送され使用する段階、さらには使用された後の段階など、「他社」由来と「消費者」由来、すなわちスコープ3であることがわかる。

● ****スコープ3については算定・申告している企業の割合は全体の22.4%に過ぎない。

今回の分析はプライム市場に上場している企業、すなわち日本を代表する企業を対象にしている。それですらCO2の排出量、特にサプライチェーンの川上や川下での排出量の算定・申告に多くの企業が手付かずであることに鑑みると、日本全体での取り組みはまだ緒についたばかりと言っていいだろう。また、実際にスコープ3の算定に着手した企業では、データ収集の課題ものしかかる。この分野でのDX推進も必須だ。

プライム市場が形成され、そこで推奨される気候変動対策リスクへの対応への要請に基づき、次年度以降、情報開示が進み、またCO2排出量削減への動きが加速することを期待したい。

変化を起こすための提案

スコープ1、スコープ2、さらにはスコープ3まで含めたCO2排出量の算定・開示を促し、排出量を削減していくために、消費者=生活者の立場でできる行動をここでは2つ提案したい。

①気候変動対策の情報開示やCO2排出量の削減を積極的に行っている企業を「応援」する

気候変動対策の情報開示やCO2排出量の削減を積極的に行っている企業の商品やサービスを積極的に購入したり、当該企業への株式投資を行ったりして、企業を「応援」する。

②生活者自身がデータを提供する

どのような製品やサービスを購入したのか、それらの製品やサービスをどのように利用しているのか、またリサイクルや廃棄は行ったのか等のデータを企業側に提供し、スコープ3の算定やCO2排出量の削減に役立ててもらう。生活者側のデータを提供するためには、たとえば決済データの活用、スマートメータデータの利用、ドライブレコーダーのデータの利用等、さまざまなITツールの活用も必要になるが、それを企業側も後押しする。

CO2排出量の削減をお題目で終わらせることがないよう、企業と生活者がデータを持ち寄り、まずは可視化、数値化していく取り組みを今後本格化させることが必要である。

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脚注

(※1)今回のレポートでは2022年4月22日時点でプライム市場に上場している企業を対象としている。個別企業のスコープ排出量については、企業ホームページや各種レポート(対象期間が2020年度)を参照し、かつGRIスタンダードに沿ったものを中心に参照した。また、一部は英国の非政府組織(NGO)であるCDP( https://www.cdp.net/ja )のサイト上に掲載されているものを参照した。いずれも2022年4月22日時点時点のデータである。